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上流工程について

システムテスト 2026年2月18日
#V字開発モデル#上流工程
上流工程について

1章:上流工程とは何か

ソフトウェア開発は、大きく「上流工程」「下流工程」に分けて捉えられます。上流工程とは、システム開発の初期段階であり、システムに対する要求や仕様を整理し、設計の方針を決定する工程を指します。具体的には、要件定義、基本設計(外部設計)、詳細設計(内部設計)などが含まれます。

 この工程では、顧客や関係者の要望を的確に把握し、それをシステムとしてどのように実現するかを検討します。いわば、開発全体の「設計図」を描く作業にあたるため、後工程の基盤となる非常に重要なプロセスです。上流工程での判断や設計内容は、その後の開発作業、さらには納品後の運用や保守にも大きな影響を及ぼします。

 一方、下流工程は、上流工程で定めた仕様に基づき、実際にプログラムを作成し、テストを通じて品質を確認していくフェーズです。もし上流工程で仕様があいまいであったり、認識のずれが生じていたりすれば、下流工程で手戻りが発生し、コストや納期に深刻な影響を与える可能性があります。

 そのため、上流工程は「問題を定義する工程」として、後の「問題を解決する工程(下流工程)」に先立ち、的確かつ丁寧に進める必要があります。関係者との十分なコミュニケーションや合意形成が求められるのも、この工程の特徴の一つです。

2章:上流工程の重要性

 上流工程は、単に開発の前段階ではなく、システム開発全体の成否を左右する極めて重要なフェーズです。この工程での判断や作業の質が、その後の開発効率やシステムの品質、さらには保守性や拡張性にも大きく影響していきます。

 上流工程の最も重要な役割は、顧客やユーザーの要求を正確に捉え、それをシステムとして実現可能な形に落とし込むことです。この段階で要件の整理や設計に誤りがあると、実装以降の工程で手戻りが発生しやすくなります。特に、設計段階の不備や要件の認識違いは、実装後やテスト時に発覚すると修正に大きなコストがかかり、プロジェクトのスケジュールや予算に深刻な影響を及ぼします。

 また、上流工程の精度は、システム全体の品質にも直結します。例えば、機能ごとの仕様が曖昧であれば、開発者が独自の解釈で実装することになり、想定外の動作やバグが発生する可能性が高まります。逆に、要件が明確であり、設計が適切に行われていれば、開発チーム内での認識が一致しやすく、品質の安定したシステムを構築しやすくなります。

 こうした上流工程の成果は、次の工程であるテスト(下流工程)に直接引き継がれます。テストでは、上流で定義された要件や設計を基にして、実装されたシステムが正しく動作しているかを検証します。そのため、上流工程における要件や設計の不備は、テスト項目の不足や評価基準の曖昧さにつながり、バグの見落としや品質低下の原因となります。上流工程の質が高ければ高いほど、テストは効率的かつ的確に進められ、全体としての開発の完成度も向上します。

 さらに、上流工程で十分な検討と合意形成を行うことは、関係者間の信頼関係の構築にもつながります。関係者の意図や目的を踏まえた設計を行うことで、後工程での調整負担や認識のずれを減らすことも可能になります。

 このように、上流工程は、開発作業の前段階であると同時に、品質・コスト・納期といった開発プロジェクトの根幹に関わる領域でもあります。上流工程での判断や作業は、下流工程を含む全体の開発活動と密接に関係しており、丁寧な検討と合意形成を通じて、プロジェクト全体の成功に大きく貢献することになります。

3章:上流工程の主なフェーズと役割

 上流工程は、ソフトウェア開発の出発点であり、システムの構想を具体化し、実装へとつなげていくための段階です。ここでは、上流工程に含まれる代表的なフェーズと、それぞれの役割について順を追って説明します。

要件定義:システムの目的と必要性を明確にする

 要件定義は、システムが「何をするべきか」を明らかにする工程です。顧客や業務担当者などの関係者からヒアリングを行い、業務上の課題や改善目標を整理したうえで、システムとして実現すべき要件を定義します。

 この段階では、システム化の対象となる業務フローの把握も不可欠です。たとえば、受発注処理、在庫管理、顧客対応など、日常的に行われている業務の流れを正確に理解し、どこを自動化・効率化するかを検討します。既存業務に課題がある場合は、その解消方法も含めて要件として明記します。

 重要なのは、「機能要件(どのような機能を提供するか)」と「非機能要件(セキュリティ、性能、可用性など)」の両面を網羅的に検討することです。要件の不備や曖昧さは、以降の設計・実装・テストにまで影響を及ぼすため、関係者との合意形成を丁寧に行う必要があります。

基本設計(外部設計):利用者の視点でシステムの構成を描く

 基本設計では、要件定義で整理された内容をもとに、システムの構成を利用者の視点から設計します。画面構成、入力・出力の項目、操作の流れ、機能同士の関係など、ユーザーインタフェースやシステムの振る舞いを外部仕様として具体化します。

 この工程が「基本設計」と呼ばれるのは、システム全体の機能や構成を大づかみに捉え、設計の土台(基本)となる部分を定めるからです。以降の詳細設計や実装は、この設計内容に基づいて行われるため、全体像を確定させるフェーズとして非常に重要です。

 この設計は、後の詳細設計やテスト仕様の基礎となるため、操作性や業務フローとの整合性にも配慮が必要です。また、ユーザビリティやアクセシビリティといった観点もこの段階で検討することが望まれます。

詳細設計(内部設計):実装に向けた技術的な設計を行う

 詳細設計では、基本設計で決めた仕様を技術的なレベルに落とし込み、各プログラムやモジュールの構造・処理手順・データ構造などを明確にします。たとえば、どのクラスで何の処理を行うか、エラー処理はどのように実装するか、データベースとの連携方法はどうするか、といった具体的な技術仕様を設計します。

 たとえば、商品の在庫情報を表示する画面を実装する場合、「商品IDを受け取り、在庫テーブルから在庫数を取得し、画面上に表示する」という処理の流れを、どの関数・メソッドでどの順序で処理するかまで明示します。使用するプログラミング言語、フレームワーク、APIとの連携方法、例外発生時の処理フローなども、ここで設計されます。

 さらに、詳細設計では非機能要件への対応も考慮する必要があります。たとえば、「1秒以内に画面が表示されること」や「同時アクセス数が100を超えても処理が遅延しないこと」などの性能要件、ログの記録方式やバックアップ体制といった運用要件も、実装設計の中で具体化されます。こうした技術的な要件を漏れなく設計することが、堅牢で安定したシステムの構築につながります。

 この工程の成果物は、開発者が実装を行う際の手引きとなるものであり、設計の精度がそのまま実装の品質に直結します。設計の意図が不明確な場合、開発者ごとに解釈が分かれ、品質や一貫性の低下を招く可能性があります。

実装:設計をもとにシステムを構築する

 実装は、詳細設計に基づいてプログラムを作成する工程です。各モジュールをコードとして書き起こし、システム全体を構築していきます。単体テストを通じて、モジュール単位で動作確認を行いながら、品質を担保していきます。

 この段階では、設計どおりに正確に実装することはもちろん、保守性や可読性、再利用性なども意識する必要があります。また、実装中に設計の不備や要件の漏れが発見されることもあるため、上流フェーズとの密な連携が求められます。

以上が上流工程の各フェーズとなります。

 上述したように、各フェーズは、独立して存在しているわけではなく、前段階での成果物を基に次の段階へとつながっていく、連続的なプロセスになっています。各フェーズにおいて適切な設計と合意を積み重ねることが、後工程での効率的なテストや、安定した運用へと結びつきます。次章では、これらの工程において直面しやすい課題とその対策について詳しく見ていきたいと思います。

第4章:上流工程でよくある課題とその対策

 上流工程は、プロジェクト全体の品質や進行を左右する極めて重要な段階ですが、実務ではさまざまな課題が発生します。ここでは特に頻出する課題とその対策について述べます。

要件の曖昧さと解釈のズレ

 上流工程では、ユーザーの要求や業務課題を要件として文書化しますが、その内容が曖昧だったり、関係者間で解釈が異なったりすることが多くあります。たとえば、「操作しやすい画面」といった表現では、具体的な要件としての検証や実装が困難です。このような曖昧な表現は、開発途中やテスト工程での手戻りや認識違いを招く原因となります。

 対策としては、要求や要件をできる限り定量的かつ具体的に記述し、関係者間で共通理解を図ることが求められます。 さらに、レビューやワークショップなどの場を活用し、認識のズレを早期に解消することも有効です。

要件と設計、テストとのつながりの不明確さ

 もう一つの大きな課題は、要件、設計、テストがそれぞれ独立して進められ、内容が適切に連携していないケースです。こうした状況では、要件を満たしていない設計や、要件に基づかないテストが実施される恐れがあります。

このような問題への有効な対策の一つが、トレーサビリティマトリクス(トレーサビリティ  マトリックスとも呼ばれる)の活用です。

 トレーサビリティマトリクスとは、要件、設計、テストケースといった各成果物の関連性を表形式で整理・管理するものです。たとえば、「要件Aは設計項目aに対応し、テストケース001で検証される」といったように、各工程の成果物がどのようにつながっているかを一目で確認できます。これにより、以下のようなメリットが得られます。

  • テストの抜け漏れ防止
  • 要件変更時の影響範囲の把握
  • 各成果物の品質担保

 特に要件が変更された際に、どの設計・テストケースに影響するかをすぐに特定できるため、変更管理や品質維持に大きく貢献します。トレーサビリティマトリクスは手間のかかる作業ではありますが、品質保証の観点から見ると非常に効果的な手法です。

要件の更新や変更管理の不足

 プロジェクトが進行する中で要件が変化することは珍しくありません。しかし、その変更が設計書やテスト仕様書に正しく反映されていないと、古い仕様に基づいた実装やテストが行われるリスクが生じます。これは品質低下やリリース遅延の原因となります。

 対策としては、変更管理プロセスを整備し、要件の変更があった際には関係する成果物全体に迅速かつ正確に反映されるようにすることが必要です。 ここでもトレーサビリティマトリクスが有効に機能します。マトリクスを見れば、どの要件に変更があった場合、どの設計・テストに影響が及ぶかを正確に把握できます。

以上のように、上流工程においては、要件の曖昧さ、成果物の非連携、変更管理の不備といった課題が存在します。これらを解決するためには、要件の明確化とともに、成果物間のつながりを可視化し管理する仕組みとしてトレーサビリティマトリクスを導入することが、実務上非常に有効です。上流工程の品質を高めることが、プロジェクト全体の成功に直結するのです。

5章:上流工程と下流工程の関係性

 システム開発において、上流工程と下流工程はそれぞれ独立した活動のように見えることがありますが、実際には密接に関連しています。その関係性を視覚的に整理するためによく用いられるのが「V字モデル」です。このモデルを用いることで、開発工程とテスト工程の対応関係が明確になり、上流工程での判断や記述が、後続工程の品質や作業効率にどのように影響するかを具体的に理解することができます。

V字モデルとは何か

 V字モデルは、システム開発の各工程と、それに対応するテスト工程をV字の形で表現した図解モデルです。V字の左側が要件定義から基本設計、詳細設計といった「設計・開発工程」、右側が単体テスト、結合テスト、システムテストといった「検証工程(テスト工程)」を示しています。左側で決められたことが、右側の工程で正しく実現されているかを確認していく関係になっているということに注目してください。すなわち、上流工程での決定事項が、下流工程におけるテストの対象となるということです。

このような構造から、上流工程での記述の曖昧さや漏れは、下流のテスト工程における誤解や手戻りの原因となりやすく、開発全体の品質に大きな影響を及ぼします。

V字モデル

V字モデルをもとにして考えると、上流工程の各フェーズにおいて、下流のテストを見据えた判断や記述が求められることがわかります。以下に、各工程で意識すべきポイントを整理します。

要件定義で意識するポイント

 要件定義は、システムが実現すべき業務上の目的や制約条件を明確にする工程です。この段階では、システム全体の受け入れ条件や想定される利用シナリオを明文化しておくことが、後のシステムテストの基盤となります。また、非機能要件(例:性能、セキュリティ、可用性など)についても、この時点でできるだけ定量的に記述しておくと、後続のテスト計画が立てやすくなります。

基本設計で意識するポイント

 基本設計では、システムの機能を大まかな構造に分解し、画面や機能単位での仕様を記述します。この段階では、機能同士の連携やデータの流れが明確になるため、結合テストの観点からも整合性やインターフェースの定義に注意を払う必要があります。テストの観点として、「この機能は他の機能とどう連携するか」「どのような異常系があり得るか」といった視点で設計を見直すことが有効です。

詳細設計で意識するポイント

 詳細設計は、プログラム単位での処理の流れやデータ構造を定義する工程です。単体テストはこの詳細設計に基づいて実施されるため、条件分岐や例外処理、境界値に対する仕様が明確に記述されていることが求められます。また、仕様に対して「どのような入力があり得て、どのような出力が期待されるのか」を記載することで、テストケースの作成が効率的かつ正確になります。

 このように、上流工程においてテストを意識した設計や仕様記述を行うことで、下流工程のテスト効率は大きく向上します。一方で、要件が不明確だったり、設計に曖昧さが残ったまま進行した場合、テスト工程ではその意図を補完するために余分な工数が発生したり、仕様の誤解に起因する不具合が多発するリスクも高まります。V字モデルの視点を常に意識し、各工程がテスト工程とつながっていることを理解して作業することが、全体品質の向上につながります。

まとめ

 上流工程は、要求分析・要件定義・基本設計・詳細設計・実装といったシステムの構想から開発までの初期段階を指し、ここが甘いと設計漏れや品質低下、スケジュール遅延につながる重要なフェーズです。

 本文で説明したV字モデルは上流工程(左側)と下流工程(右側=単体・結合・システム・受け入れテスト)を対になる形で捉えるもので、左側で決めた設計内容の検証を右側で行うことで品質を担保します。たとえば、詳細設計に対応する単体テスト、基本設計に対応する結合テスト、要件定義に対応するシステムテストなど検証工程に対応しています。

 要件定義段階で業務フローを整理し、トレーサビリティマトリクスの活用によって、要件→設計→テストの対応関係を可視化し、抜け漏れや変更管理を行いやすくするようにしましょう。そうすれば、要件変更時の影響範囲把握や品質維持が容易になります。

この記事を書いた人

GENZ マーケティンググループ MB
GENZ マーケティンググループ MB
ソフトウェアテスト・品質保証の専門集団「GENZ」のマーケティングチームのTMです。 企業文化や最新トピック、システムテストのノウハウ、品質改善の事例など、開発・テスト現場に役立つ情報を発信中。 「品質×マーケティング」で、読者とGENZの架け橋となるコンテンツをお届けします。

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