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非機能要件について

システムテスト 2026年2月12日
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非機能要件について

非機能要件の重要性

 システム開発において、多くの場合は「何ができるか」という機能面に注目が集まります。新しい機能や便利な操作は確かに重要ですが、それだけではユーザーが安心して使える魅力のあるシステムにはなりません。
動作の速さや安定性、障害発生時の復旧体制、セキュリティ対策など、機能以外の特性や条件を定める「非機能要件」も同等に重要であると言えます。
 非機能要件は、ユーザー体験やシステムの信頼性を左右する基盤的な要素であり、これらが不十分だと、機能要件を満たしていても利用者の満足度は大きく損なわれてしまいます。
特に性能や可用性、セキュリティは、ビジネスの継続性や競争力にも直結するため、開発の初期段階から明確に定義し、計画に組み込む必要があります。
本記事では、非機能要件の概要と機能要件との違い、定義すべき主要項目、評価指標やテスト手法、そして設計時のポイントについて整理して紹介していきます。

非機能要件とは? 機能要件との違い

 非機能要件とは、システムが備えるべき「質」に関する要件を指します。
具体的には、処理速度や稼働率、障害発生時の復旧時間、セキュリティ水準、運用のしやすさなど、機能そのものではなく、その機能をどのような条件や水準で提供するかを定めたものです。
これらはユーザーの利便性や満足度、ビジネスの安定性に直結しますが、目に見えにくく、定義が抽象的になりがちです。
また、顧客の中でも、明確な定義がされていない場合があります。
 一方、機能要件は「何ができるか」を示す要件であり、システムが提供すべき具体的な機能や動作内容を定義します。
たとえば「ユーザー登録ができる」「商品の検索ができる」といった機能は機能要件にあたります。
これに対し、非機能要件は「登録処理が3秒以内に完了する」「検索は1万件のデータに対しても1秒以内で結果を表示する」など、機能の品質や条件を規定します。
 両者の違いは、機能要件が「何をするか」に焦点を当てるのに対し、非機能要件は「どのようにそれを実現するか」に重点を置く点にあります。
プロジェクト成功のためには、この二つを同等に扱い、開発初期からバランスよく定義することが重要です。
 なぜなら、非機能要件の定義が後回しになると、開発の終盤や運用段階で性能不足やセキュリティ欠陥などの問題が発覚し、大幅な改修や追加コストが発生するリスクが高まってしまいます。
また、非機能要件はシステムの設計方針やインフラ構成にも直結するため、初期段階で考慮しておかなければ、後から対応が難しくなることが多くあります。
さらに、性能や信頼性、使いやすさといった品質面は、ユーザーの満足度やサービス継続率を左右する要因であり、機能面だけでは競合との差別化が困難です。
このような理由があるため、開発初期から機能要件と非機能要件はバランスよく定義づける必要があります。

非機能要件で定義すべき主要項目

 非機能要件を具体的に設計する際には、システムの目的や利用環境に応じて、重要な品質項目を網羅的に整理することが求められます。
代表的な整理方法として、IPA(情報処理推進機構)が定義する「非機能要求グレード」の6カテゴリがあり、実務でも広く活用されています。

IPA(情報処理推進機構)が定義する「非機能要求グレード」の6カテゴリ

IPA 非機能要求グレード
項目名 概要
可用性 可用性は、システムがどの程度の稼働率で利用可能であるかを示します。
例えば「稼働率99.99%」といった目標値を設定し、サーバーの冗長化やフェイルオーバー構成、バックアップ体制などを設計段階から盛り込みます。
可用性の確保は、24時間365日稼働が求められるサービスや基幹業務システムにおいて特に重要です。
性能・拡張性 性能・拡張性は、システムが処理をどれだけ速く行えるか、また将来の負荷増大にどのように対応できるかを示します。
具体的にはレスポンス時間、同時接続可能ユーザー数、1時間あたりの処理件数などを定義し、クラウド環境でのスケールアウトやキャッシュ利用などの設計方針も含めます。
運用・保守性 運用・保守性は、安定稼働を維持し、障害時にも迅速な対応を可能にするための要件です。
監視ツールによる常時監視、障害通知の自動化、障害対応マニュアルの整備、ログの取得・解析の仕組みなどが含まれます。
移行性 移行性は、新旧システム間の切り替えやデータ移行の容易さを示します。
データ変換ツールの準備や、移行テスト、移行後の検証体制などを定義することで、その役割は導入時のトラブルやサービス停止リスクを低減させることです。
セキュリティ セキュリティは、システムやデータを不正アクセス、情報漏えい、改ざんなどの脅威から守るための要件です。アクセス制御、認証・認可、通信やデータの暗号化、脆弱性診断の実施などが含まれます。
システム環境 システム環境は、システムを動作させるためのハードウェア、ネットワーク、OS、ミドルウェアなどの条件や、設置場所の温度・湿度管理、エネルギー消費の最適化などを含みます。
特に組み込み機器やオンプレミス環境では物理的条件が重要となります。

JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「非機能要求仕様ガイドライン」

さらに、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「非機能要求仕様ガイドライン」では、より詳細な10分類が提示されています。

JUAS 非機能要求仕様ガイドライン
項目名 概要
機能性 機能性は、利用者の要求を満たす機能をどの程度備えているかを示し、仕様の完全性や正確性が含まれます。
信頼性 信頼性は、障害発生率の低さや、障害からの迅速な復旧可能性を評価するものです。
使用性 使用性は、システムの使いやすさや学習のしやすさを示し、画面レイアウトや操作フロー、ヘルプ機能などが含まれます。
効率性 効率性は、システムが必要な処理をどれだけ効率的に行えるかを示し、性能やリソース使用量の最適化が対象となります。
保守性 保守性は、障害修正や機能追加などの変更作業をどれだけ容易に行えるかを評価します。
移植性 移植性は、異なるプラットフォームや環境への移行のしやすさを指します。
障害抑制性 障害抑制性は、障害がシステム全体に波及することを防ぐための設計や仕組みを評価します。
効果性 効果性は、システムが期待した業務効果や成果をどの程度達成しているかを示します。
運用性 運用性は、日常的な運用管理のしやすさや効率性を評価します。
技術要件 技術要件は、利用する技術や開発環境、フレームワーク、ミドルウェアの選定条件を含みます。

 このように代表的な2つの非機能要件についての項目をとりあげましたが、一方だけにある項目もあれば、両方にある項目もあることに気が付かれるかもしれません。
システムによっては項目が該当しない場合もありますし、すべて明確に定義しなければならないわけではありません。
あえて、要件を記述せずとも一定の水準のシステムが完成することもあり得ます。しかし、大事な非機能要件が漏れていて、大幅な手戻りが生じてしまうというケースもあります。
 重要なのは、これらの分類をよく理解し、システム特性や事業目的に応じて組み合わせて活用することで、抜け漏れのない非機能要件定義を可能にしていくことです。
特に、大規模システムや長期運用を前提とするプロジェクトでは、初期段階での網羅的な整理が後の品質確保に直結します。

非機能要件を評価するための基準と指標

非機能要件は目に見えにくく、抽象的になりがちな性質があります。
そのため「いかに評価・管理するか」が重要です。 ここでは、非機能要件の評価に有効な「RASIS」「SLA」「SLO」について整理します。

RASIS

RASISは、Reliability(信頼性)、Availability(可用性)、Serviceability(保守性)、Integrity(完全性)、Security(安全性)の頭文字をとった指標体系です。
非機能要件に限らず、システム全体の品質評価に広く用いられています。
下の表に概要と代表的な指標をまとめました。
表の各項目をバランス良く評価することで、システムの信頼性や品質を体系的に把握でき、防止すべきリスクや対応すべき設計ポイントを明確にすることができます。

項目 概要 代表的な指標例
Reliability(信頼性) 故障や不具合によって停止しにくい、安定稼働する度合 平均故障間隔
Availability(可用性) 必要なときに機能し続ける能力、稼働している割合 稼働率
Serviceability(保守性) 障害復旧やメンテナンスの迅速さ・しやすさ 平均修理時間
Integrity(完全性) データが正確かつ一貫しており、誤りや改ざんが起こりにくいこと 定性的評価が中心
Security(安全性) 不正アクセスや情報漏えいへの耐性 定性的評価が中心

SLA

SLAServiceLevelAgreement)
は、サービス提供者と顧客との間で交わされる、サービス品質に関する正式な契約書です。
日本語では「サービスレベル契約」と呼ばれます。どの範囲で・どの品質を保証するかを明文化し、違反時にはペナルティ規定も含めて合意する仕組みです。
SLA に盛り込まれる具体的内容としては以下のようなものがあります:

  • システムの稼働率(可用性)
  • 障害時の対応時間(例:ヘルプデスクへの回答時間)
  • 応答性能(例:レスポンス速度)
  • 障害通知やメンテナンス予告のタイミング
  • 定期的な稼働統計情報の開示
  • 性能ベンチマーク値の基準値設定 など

SLAを設定することで、品質や稼働の期待値を明確に共有できるだけでなく、提供者側・顧客側ともにリスク認識を揃えた運用が可能になります。

SLO

SLOServiceLevelObjective)
は、SLA(契約内容)を達成するために設けられる具体的・定量的な目標です。
日本語では、「サービスレベル項目(目標)」と呼ばれます。内部運用の指標として設定され、評価・改善に使われます。
SLOには、以下のような項目が掲げられます。

  • 「レスポンス時間が 95%のリクエストに対して 200ms 以下である」
  • 「月間でヘルプデスク応答時間が 90%を 3分以内にする」
  • 「システム可用性を月間 99.9%以上に維持する」

……etc

SLOは達成状況を測定可能な形で記録し、未達成時は改善策にフィードバックしていくため、品質管理の中心的役割を果たします。
ここでは、「RASIS」「SLA」「SLO」を取り上げ、非機能要件をどのように管理・評価するかを紹介しました。
非機能要件のリスク管理や品質保証を成功させるためには、以下のステップが鍵となることを覚えておきましょう。

  1. RASISによって評価軸を明確化
  2. SLAにより提供者と受け手間で品質期待を契約化
  3. SLOの数値設定で実運用に寄り添った目標を明確化し改善を促進

非機能要件の確認に役立つテスト手法

 非機能要件は、仕様書に明文化しただけでは不十分であり、テストによる検証を通じて実際の品質を確認することが欠かせません。
機能テストが「正しく動くか」を確認するのに対し、非機能テストは「どの条件で、どの水準で動くか」を評価します。以下は主要な非機能テスト手法と目的です。

No. テスト種別 内容
1 性能テスト システムが期待される条件下で、応答時間やスループット(処理件数/秒)、リソース使用率などが要件を満たしているかを確認します。ボトルネックの特定にも有効です。
2 負荷テスト 想定最大負荷をかけ、処理遅延やエラーが発生せず安定稼働できるかを検証します。アクセス集中やバッチ処理時の挙動確認に有用です。
3 ストレステスト 想定を超える極端な負荷を与え、システムの限界性能や障害発生時の挙動を確認します。復旧のしやすさも併せて評価します。
4 耐久テスト 長時間稼働させることで、メモリリークやリソース枯渇、性能劣化など時間依存の不具合を検出します。24時間稼働システムでは特に重要です。
5 可用性テスト 稼働率の測定、フェイルオーバーやバックアップ・リストア手順の確認、災害時対応の実効性検証を行います。冗長化構成の妥当性評価も含まれます。
6 セキュリティテスト 脆弱性診断や侵入テストを通じ、不正アクセスや情報漏えい、改ざんなどのリスクを検証します。脅威モデルに基づく多面的なチェックが必要です。
7 ユーザビリティテスト 実利用者による操作検証を行い、画面設計、操作性、誤操作防止、学習のしやすさなどを評価します。定性的なフィードバックが得られる点が特徴です。
8 保守性テスト システム変更や修正を行う際の容易さを評価します。ソースコードの可読性、モジュール構造の適切性、テスト容易性、ドキュメントの充実度などを検証対象とします。保守性の低さは将来の改修コスト増大や障害対応遅延につながるため、長期運用を見据えた検証が重要です。

これらのテストは単発ではなく、開発初期から継続的かつ反復的に実施することが望まれます。
非機能要件は後から修正するほどコストが増し、システム全体に影響を及ぼすため、早期の検証と改善サイクルがプロジェクト全体の成功の鍵となります。

非機能要件設計時のポイント

 非機能要件は、システムが単に「動く」だけでなく、「快適に」「安定して」「安全に」動作し続けるための土台です。
機能要件と比べて軽視されがちですが、後から追加・修正するのが難しいため、設計初期からしっかりと検討しておく必要があります。
ここでは、非機能要件を設計する際に特に押さえておきたい3つの重要なポイントを解説します。

 最初に決めてテスト・運用とつなげる

 非機能要件はアーキテクチャやインフラ構成、セキュリティ設計など、システムの根幹部分に深く関わります。
そのため、要件定義が遅れると、設計や実装の大幅なやり直しが必要となり、コストや納期への影響が甚大になります。
 さらに、非機能要件は「定義して終わり」では意味がなく、実際にその要件を満たせるかどうかを検証できる仕組みが必要です。
例えば、性能要件で「同時アクセス数1万件を処理できる」と定義したなら、そのための負荷テスト計画や運用監視方法までセットで設計することが欠かせません。
 開発初期から設計担当、テスト担当、運用担当が連携し、「要件 → 指標 → テスト方法 → 運用監視」の流れを一貫して整えることで、後から検証不能な要件や実現不可能な要件を避けられます。

強みになるが、やりすぎは禁物

 現代のシステム開発では、基本的な機能は市場の競合製品と似通ってしまうことが多く、差別化を生むのは性能や使いやすさ、信頼性、セキュリティといった非機能要件の品質です。
例えば、レスポンス速度が速いECサイトや、24時間安定稼働するクラウドサービスは、それだけで顧客満足度や継続利用率を高められます。
しかし、非機能要件の品質を高めることは重要である一方で、過剰な仕様は逆効果になり得ます。
例えば、セキュリティを極端に高めすぎることで操作が煩雑になったり、過度な冗長化設計が不要なコストを生むことがあります。
 重要なのは、事業目標や利用シーンに即して「必要十分な水準」を見極めることです。
非機能要件のレベル設定は、コスト、ユーザビリティ、運用負荷のバランスを踏まえて決定することです。

あいまいにせず、目で見て決める

 非機能要件は「使いやすい」「安全」「高性能」といった抽象的な表現になりやすく、これが関係者間の認識ずれを引き起こす原因となります。
こうした曖昧さを排除するには、IPAの非機能要求グレードやJUASのガイドラインなど、体系化されたフレームワークを活用して項目を網羅し、具体的な数値や評価基準に落とし込むことが効果的です。
 また、クライアントとの合意形成には可視化が有効です。
たとえば、重要な非機能要件を一覧表やレーダーチャートで示し、レベルを段階的に決定していくことで、技術者以外の関係者にも理解しやすい形で説明できます。
可能なら、システム用語や専門技術の説明については、予備知識がなくても理解しやすくなるように心がけましょう。
これにより「そんな仕様だとは思わなかった」という後からのトラブルを防ぎ、開発全体の認識を一致させられます。

まとめ

 非機能要件は、システムの「見えにくいが重要な質の要件」です。
派手な機能や画面の裏側で、安定性や操作性、セキュリティといった品質を支え、最終的なユーザー満足度やサービス継続率に直結する重要な側面と言えます。
 これらを抜け漏れなく定義するためには、IPA(情報処理推進機構)やJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)が提供する公的ガイドラインを活用し、必要な項目を体系的に洗い出すことが有効です。単に「性能」や「安全性」といった抽象的な言葉ではなく、評価指標や目標値を明確化することが重要です。
 その際には、SLA(サービスレベル合意)、SLO(サービスレベル目標)、RASIS(可用性・保守性・拡張性・信頼性・安全性の観点)といった定量評価の枠組みを導入し、非機能要件を測定可能な形で管理することが望まれます。
これにより、関係者全員が同じ基準で品質を把握し、改善サイクルを回せるようになります。
 さらに、設計段階だけでなく、テスト工程においても非機能要件の検証を実施し、実際に要件を満たせることを確認することが不可欠です。
機能要件と同様に、非機能要件もプロジェクト初期から継続的に扱うことが、成功の鍵となるでしょう。
 

この記事を書いた人

GENZ マーケティンググループ MB
GENZ マーケティンググループ MB
ソフトウェアテスト・品質保証の専門集団「GENZ」のマーケティングチームのTMです。 企業文化や最新トピック、システムテストのノウハウ、品質改善の事例など、開発・テスト現場に役立つ情報を発信中。 「品質×マーケティング」で、読者とGENZの架け橋となるコンテンツをお届けします。

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