ユーザビリティテストについて
ユーザビリティテストはなぜ必要か
ユーザビリティテストとは、「ユーザーがある目的を達成するために、製品やサービスをどれだけ効率的かつ満足して使えるか」を検証するテストのことです。
このようなテストはなぜ今、必要とされているのでしょうか。
それは、ビジネスの世界でユーザー体験の重要性が日ごとに高まっていること、そして、利用者目線での開発が重視されてきているからです。
まず、ユーザー体験の重要性が増していることについてです。
現代のビジネス環境において、ITシステムやWebサービスの導入が当たり前となり、それに伴い「使いやすさ」への関心が急速に高まっています。
製品やサービスの差別化が難しくなっている中で、ユーザーにとっての「直感的な操作性」や「ストレスの少ない導線設計」は、選ばれるかどうかを左右する重要な要素になってきました。
たとえば、ECサイトで商品を検索し、スムーズに購入まで進めるかどうかは、売上に直結します。
操作が複雑だったり、入力フォームで何度もエラーが出たりすると、途中で離脱してしまう利用者が増える可能性があります。
こうした“使い勝手の悪さ”は、直接的にビジネス成果に影響を与えるようになっています。
また、サービス開発においては、「こう使ってくれるはずだ」「このボタンは誰でも気づくだろう」といった開発側の前提がしばしば存在します。
しかし、実際の利用者は、開発者の意図通りに行動してくれるとは限りません。
たとえば、会員登録ボタンがページ下部に配置されていて、ユーザーがそれに気づかず離脱してしまうケースなどがよくあります。
このように、「開発者の常識」が「利用者の直感」とずれることは多々あります。
ユーザビリティテストは、こうしたズレを客観的に発見する手段として極めて有効です。
いわば、“開発者の目線”ではなく“利用者の目線”に立ち返るための仕組みといえます。
そもそもユーザビリティテストとは
この部分ではユーザビリティをどのように評価するのか、そして、ユーザビリティテストの定義について説明します。
ユーザビリティの評価基準
ユーザビリティは抽象的な概念ではありますが、主に以下の3つの基準で定量的・定性的に評価できます。
- 有効度(Effectiveness)
ユーザーがそのサービスを使って、自身の目的や目標を達成できるかどうか。
例:資料請求フォームで、ユーザーが迷うことなく申し込み完了まで進めるか。 - 効率度(Efficiency)
目標を達成するのに必要な時間や手順、労力が最小限に抑えられているか。
例:購入フローが3クリックで完了するか、住所入力が自動補完されるか。 - 満足度(Satisfaction)
ユーザーが操作中や完了後にストレスを感じず、快適に利用できたと感じるか。
例:問い合わせ対応がスムーズで、操作後の印象がポジティブだったか。
この3つを高めることが、ユーザビリティ向上に直結します。
テストでは、この観点でユーザーの行動や感想を観察・分析することが不可欠です。
ユーザビリティテストの定義
ユーザビリティテストとは、実際のユーザーに製品やサービスを操作してもらい、その様子を観察・記録しながら、「使いやすさ」「わかりやすさ」「ストレスの有無」などを評価する手法です。
システムが仕様通りに動作するかを見るバグテストとは異なり、ユーザーが期待通りの行動をスムーズに取れるかを検証します。
テスト中には、ユーザーの操作ログ、表情、つぶやきなどの定性的データを収集します。
たとえば「このボタンはどこを押せばいいかわからない」といったつぶやきは、設計上の課題を示している可能性があります。
ユーザビリティを構成する5つの要素
ユーザビリティの理論的基盤として、ヤコブ・ニールセン博士が提唱した以下の5つの要素があります。
ユーザビリティテストの設計・評価において、これらを参考にすることで、よりユーザーにとって使いやすい製品であるかどうかの検証が可能になります。
- 学習しやすさ(Learnability)
初めて使うユーザーでも、すぐに操作方法を理解できること。 - 効率性(Efficiency)
慣れたユーザーが作業を迅速に行えるよう、操作が簡潔であること。 - 記憶しやすさ(Memorability)
一度使ったユーザーが、しばらく間を空けてもすぐに操作を思い出せること。 - エラー発生率と回復性(Errors)
ユーザーが操作ミスをしにくく、万一ミスをしても簡単にリカバリーできる設計であること。 - 主観的満足度(Satisfaction)
操作中にストレスを感じず、楽しく、心地よく使えると感じること。
この5要素は、ユーザビリティの中核をなす考え方として広く受け入れられています。
ユーザビリティテストの主な評価項目
ユーザビリティテストを行う際には、以下のような評価項目を設定することで、網羅的な確認が可能となります。
- ナビゲーションの使いやすさ
ユーザーが目的のページや情報にたどり着くまでに迷いがないか。
グローバルナビゲーションやハンバーガーメニューの構造、ラベルの名称、配置などがわかりやすいかを確認します。 - コンテンツの可読性・理解しやすさ
フォントサイズ、文字間、配色、文の構造などが適切かどうか。
たとえば、「操作ガイド」が長文で難解な表現を使っていないか、イラストや図を交えて直感的に理解できるかなども重要です。 - 操作の直感性とユーザーフローのスムーズさ
「ここを押せば次に何が起きるか」が予想できるかどうか。
ユーザーが説明書を読まなくても、自然な導線で目的を達成できる設計になっているかを見極めます。 - フォームや入力欄の使いやすさ
項目数が多すぎないか、エラー表示が分かりやすいか、必須項目と任意項目の区別が明確かなど、ユーザーに負担をかけずに必要な情報を入力してもらえる設計かを評価します。 - レスポンシブ対応・モバイル最適化
スマートフォンやタブレットなど、異なるデバイスでも快適に使えるか。
特に近年はスマホユーザーが多数派であるため、PC中心の設計では大きな機会損失につながります。
これらの項目は、ユーザビリティチェックリストや観察の観点として非常に有用です。
テスト計画段階でこれらの指標を定めておくことで、ブレのない評価が可能になります。
これらの評価項目を前述したユーザビリティを構成する5つの要素にあてはめると以下のようになります。
| ユーザビリティ構成要素 | 説明 | 関連するユーザビリティテストの評価項目 |
|---|---|---|
| 1. 学習しやすさ (Learnability) | 初めてでもすぐに使えるか | ナビゲーションの使いやすさ・操作の直感性 |
| 2. 効率性 (Efficiency) | 慣れてから素早く操作できるか | ユーザーフローのスムーズさ・フォームや入力欄の使いやすさ |
| 3. 記憶しやすさ (Memorability) | 久しぶりでもすぐ使えるか | ナビゲーションの一貫性・コンテンツの理解しやすさ |
| 4. エラー発生率と回復性 (Errors) | ミスしにくく、しても回復しやすいか | フォームや入力欄の使いやすさ・操作の直感性 |
| 5. 主観的満足度 (Satisfaction) | 心地よく使えると感じられるか | 可読性や理解しやすさ・レスポンシブデザインやモバイル対応 |
ユーザビリティテストの主な種類と特徴
ユーザビリティテストにはさまざまな手法がありますが、大きく分けると「どのようなデータを得るか」と「どのような方法で得るか」という2つの観点から整理できます。
この章では、それぞれの観点から主要な分類と特徴について説明します。
ユーザビリティテストの種類(データの性質による分類)
(a)定量型ユーザビリティテスト
定量型のユーザビリティテストは、ユーザーの操作結果を「数値」で評価する手法です。
具体的には、ユーザーに決められたタスク(例:商品をカートに入れて購入まで進める)を実行してもらい、以下のような項目を記録・集計します。
- タスク完了率(何人が成功したか)
- 所要時間(平均でどのくらいかかったか)
- エラー発生率(どれくらい操作ミスがあったか)
これらのデータをもとに、サービスや画面の使いやすさを客観的に評価できます。
数値による裏付けが得られる点は、社内説明や改善提案の根拠として非常に有効です。
ただし、正確な傾向を把握するにはある程度のテスト参加者(母数)が必要なため、準備や実施に手間やコストがかかるのが難点です。
(b)定性型ユーザビリティテスト
一方、定性型のユーザビリティテストは、ユーザーの主観的な印象や感情に注目する手法です。
「この画面は分かりにくい」「使っていて退屈」「印象に残らない」といったフィードバックを、インタビューやアンケートなどを通じて収集します。
具体的な数値には表れない、ユーザーの本音や直感的な評価を把握できるのが特徴です。
定量型テストでは見逃されがちな「なぜ使いにくいと感じるのか」「どこで迷ったのか」といった原因の深掘りにも役立ちます。
ただし、評価が主観に基づくため、個人差が出やすく、客観的な比較がしにくいという課題もあります。
目的に応じて定量型と組み合わせて使うと、よりバランスの良い分析が可能になります。
ユーザビリティテストの種類(実施方法による分類)
ユーザビリティテストの実施方法にはさまざまな形式があります。
ここでは代表的な4つの方法について、特徴と適した場面を紹介します。
(a)観察型テスト
観察型テストは、ユーザーが実際にサービスを利用する様子を観察して、どのように操作しているか、どこで戸惑っているかなどを記録・分析する方法です。
たとえば「このボタンを押した後に戻ってしまった」「画面を行ったり来たりしている」といった行動から、ユーザーの意図や混乱の原因を推測できます。
他のテスト(インタビューやアンケート)と併用しやすいのが利点で、初期段階での問題発見にも適しています。
(b)インタビューテスト
インタビューテストでは、ユーザーに製品を使ってもらった後に対話形式でヒアリングを行い、「どこが分かりにくかったか」「なぜその操作を選んだか」といった情報を掘り下げて聞き出します。
開発者が直接ユーザーの声を聞くことで、意図と実際の体験とのギャップを把握しやすくなります。
一方で、インタビューの準備、実施、分析には時間とコストがかかるため、実施規模を調整しながら活用するのが一般的です。
(c)タスクベーステスト
タスクベーステストでは、事前に用意した具体的なタスク(操作の目的)をユーザーに実行してもらい、その達成状況や所要時間などを確認します。
たとえば、次のようなタスクを設定します:
- 会員登録フォームを使って登録を完了する
- 商品一覧から特定の商品を見つけて詳細ページを開く
タスクに対する成功率や平均完了時間は、定量的な指標としてそのまま活用できるため、課題の優先順位付けや改善効果の測定にも適しています。
定量的な結果を得ることができるため、リリース直前での検証でも多く用いられます。
(d)アンケート調査
アンケート調査は、製品やサービスを使用したユーザーに対して質問票を配布し、回答を集める手法です。
比較的短時間で多くのユーザーからフィードバックを集めることができ、定性的な意見に加えて、選択式の設問によって定量的な集計も可能です。
Webアンケートを活用すればコストや工数を抑えることができ、他のテスト後のフォローアップにも使いやすい手法といえます。
このようにユーザビリティテストの種類や方法には強みと制約が存在しています。
目的や対象フェーズに応じて使い分けることが重要であると言えます。
また、複数の手法を組み合わせて活用することで、より多角的な評価が可能になることも覚えて置きましょう。
ユーザビリティテストの実施ステップ
ここからは実際のユーザビリティテストをどのように実施していくのか4つのステップに分けて紹介していきます。
ステップ1:目的の明確化と対象ユーザーの選定
最初のステップは、ユーザビリティテストの目的を明確にすることです。
テストの目的は、「初回ユーザーがどこで迷うかを知る」「新機能の導線に問題がないかを確認する」など、具体的であるほど効果的です。
次に、その目的にふさわしい対象ユーザーを選定します。
たとえば、若年層向けアプリであれば10代〜20代が対象になりますし、業務システムであれば実際の利用部署の社員が適任です。
ステップ2:シナリオ設計とタスク設定
次に行うのは、実施する操作タスクの設計です。
ここでは、現実の利用状況に即したシナリオを用意することが重要です。
たとえば、「商品を探してカートに入れ、決済まで完了させる」といった一連の流れをタスクとして設定し、その中でユーザーがどこでつまずくのかを観察します。
現実に起こり得る操作を想定することで、実際の課題が浮かび上がりやすくなります。
テストがスムーズに行えるように必要とされる端末やアカウントも事前に用意しておきましょう。
ステップ3:実施と記録のポイント
テストを実施する際は、できるだけ被験者が自然に操作できる環境を整えることが大切です。
緊張感や監視されている感覚を与えないように配慮し、操作の様子は画面録画や音声記録などで丁寧に記録します。
ユーザーのマウスの動き、目線の揺れ、つぶやきなどは、重要な気づきを得る手がかりになります。
テスト中に記録をとらないのであれば、テスト実施後に、インタビューやアンケートを行うことができます。
テスト中に物足りない点に気が付いたなら記録しておくようにしましょう。
ユーザビリティテストは1回で終わるものではないので、次回のテストに活用することができます。
ステップ4:分析と改善提案
収集したデータは、単なる「ミスの回数」だけでなく、「なぜミスが起きたのか」「その背景には何があるのか」といった観点から多角的に分析します。
その結果をもとに、改善案を明確にして、具体的なアクションに落とし込むことが重要です。
たとえば、「ユーザーがボタンを見落とした→ラベルを変更+配置を見直す」といった具合です。
ここまで行って初めて、ユーザビリティテストがサービス改善に貢献したと言えます。
ユーザビリティテストを成功させるポイント
ユーザビリティテストは、製品やサービスの「使いやすさ」を実際のユーザー視点で検証できる有効な手段ですが、正しく実施しなければ十分な成果を得ることはできません。
ここでは、テストを効果的に進めるために特に重要な4つのポイントを紹介します。
ユーザーの感情の変化に注目する
ユーザビリティテストでは、ユーザーの感情の動きに細かく注意を払うことが大切です。
たとえば、操作中に戸惑った様子を見せていたり、画面の読み込みに時間がかかって苛立っていたりする場合、それは使いづらさのサインかもしれません。
特に、初めて製品に触れるユーザーは、既存の知識や思い込みにとらわれずに直感で操作を試みるため、そのときの反応や表情、ためらいなどから多くの気づきを得ることができます。
こうした「ユーザーの小さな違和感」に気づき、記録・分析することで、より本質的なユーザビリティの課題を発見しやすくなります。
テストは1回で終わらせず、改善と再実施を重ねる
1回のテストだけで全ての課題を把握し、完璧な改善につなげるのは困難です。
ユーザビリティテストは一度きりではなく、**「テスト → 改善 → 再テスト」**というサイクルを繰り返すことが成功の鍵です。
たとえば、初回テストで「会員登録フォームがわかりにくい」という課題が見つかったとします。
その内容をもとにUIを改善した後、再度テストを実施すれば、改善策が本当に有効だったかどうかを確認できます。
このように、継続的にテストを行うことで、使いやすさを段階的に高めることができるのです。
ターゲットユーザーに近いテスターを選ぶ
ユーザビリティテストでは、実際の利用者像に近いテスターを選定することが重要です。
たとえば、主に20-40代のビジネスパーソンを対象とした業務用アプリケーションであれば、テスト参加者もその年代・職種に近い人を選ぶことで、より実態に即した評価が得られます。
ただし、あまりに対象を限定しすぎると偏った意見に偏重してしまうおそれもあるため、ターゲットの枠組みを意識しつつ、一定の多様性も確保することが望ましいでしょう。
適切なテスター人数を確保する
ユーザビリティテストの実施にあたっては、テスターの人数も重要な要素です。
人数が少なすぎると、得られるフィードバックに偏りが出て、課題を十分に洗い出せないことがあります。
一方で、人数を増やせば増やすほど準備や分析にかかる手間・コストも大きくなります。
そのため、適切なバランスを見極める必要があります。
ユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン博士によれば、「5人のテスターがいれば、全体の85%程度の問題を検出できる」とされています。
テスターの人数を決める際の目安にしましょう。
まとめ
ユーザビリティテストは、「ユーザーが目的を達成できるか」「それにかかる負荷は適切か」「満足して利用できるか」といった観点から、システムの“実際の使いやすさ”を評価・改善するプロセスです。
単なる感想や主観だけでなく、有効度・効率度・満足度という基準や、ナビゲーション、直感性、レスポンシブ対応などの具体的な項目、そして学習しやすさ・記憶しやすさ・エラー回避といった普遍的な設計原則を用いることで、客観的かつ体系的な改善が可能になります。
今後、デジタルサービスの価値がますます「使いやすさ」によって評価される時代において、ユーザビリティテストは単なる確認作業ではなく、競争力強化のための戦略的アプローチといえるでしょう。
この記事を書いた人